歯磨きは毎日行っているのに、気がつくと歯の表面や歯と歯ぐきの境目がザラザラしている。それはもしかすると「歯石」が原因かもしれません。
歯石をそのまま放置すると口臭や歯周病のリスクが高まるだけでなく、見た目にも大きく影響します。本記事では、歯石が引き起こす主なトラブルや予防方法について詳しく解説していきます。
- 歯石ができる理由
- 自宅でできるセルフケア方法
- 歯科医院での除去の流れと費用
- 歯石を防ぐ生活習慣について
歯石とは何か 歯垢(プラーク)の違いは?
「歯石と歯垢(プラーク)は何が違うの?」こんな疑問を持った方も多いのではないでしょうか。
結論から言うと、歯垢は初期段階、歯石は進行後の状態を指します。
しかも、歯石になってしまうと通常の歯磨きでは取れず、歯科医院での除去が必要になるため、早い段階でケアすることが非常に重要です。
ここではまず、歯石と歯垢それぞれの違いを、わかりやすく解説していきます。
歯垢(プラーク)とは
歯垢とは、食べカスと細菌が混ざり合った柔らかい付着物のことです。
透明〜白っぽい色をしており、歯の表面や歯と歯の間に付着します。
歯垢の主な特徴は次の通りです。
- ブラッシングやフロスで除去できる
- 細菌のかたまりなので、虫歯や歯周病の原因になる
- 24〜48時間で石灰化が始まる
このように、歯垢は放置するとすぐに固まり始め、やがて歯石へと進行してしまいます。つまり、歯垢は歯石の前段階。
歯垢を毎日きちんと落とせば、歯石の発生を防ぐことができるのです。
歯石とは?
歯石は、歯垢が唾液中のミネラルと結びつき、石のように硬く固まったものです。
色は黄白色〜茶色に変わり、歯に強く付着します。
ポイントは以下のとおり。
- ブラッシングでは取れない
- 歯科医院で専用器具による除去が必要
- 表面がザラザラして、さらに歯垢がつきやすくなる
放置すると、歯周病・口臭・虫歯のリスクが一気に高まるため、早めの対応が欠かせません。
歯石が付く主な原因は?
歯石ができる原因はさまざまですが、もっとも大きな要素は「磨き残し」です。毎日歯磨きをしていても、歯ブラシが届きにくい場所や磨き方にクセがあると、歯垢がたまりやすくなります。これが唾液の成分と結びつき、時間とともに硬くなり、歯石へと変化していきます。
加えて、口の中の環境や生活習慣も大きく影響します。代表的な原因をまとめると次のとおりです。
- 歯磨き不足・磨き残し
→ 特に奥歯や歯と歯ぐきの境目に注意。 - 唾液のミネラル成分
→ カルシウムやリンが多いと、歯垢が石灰化しやすい。 - 口の中の乾燥(ドライマウス)
→ 唾液量が少ないと自浄作用が弱まり、歯垢が残りやすくなる。 - 糖分・酸の多い食生活
→ 細菌が活性化し、歯垢が増殖しやすくなる。 - 喫煙習慣
→ 唾液の質が悪化し、口腔環境が悪くなる。
このように、歯石は磨き残しだけでなく、生活習慣や唾液の性質によってもできやすくなるのです。
普段のケアを少し見直すだけでも、歯石予防に大きくつながります。
歯石が付きやすい場所は?
歯石は、口の中ならどこにでもできるわけではありません。
特に「唾液が多く流れる場所」や「磨きにくい場所」は、歯石の温床になりやすいといわれています。
歯石がつきやすい部位は、以下の通りです。
-
下の前歯の裏側
舌の下にある唾液腺が近く、ミネラルを含んだ唾液が直接当たるため、石灰化しやすい。 -
上の奥歯の外側(頬側)
耳下腺からの唾液が流れ込みやすく、かつ歯ブラシが届きにくいため、歯垢が残りやすい。 -
歯と歯の間(歯間部)
ブラシだけでは汚れが取りきれず、歯垢がたまりやすい。放置すると歯石化しやすく、フロス・歯間ブラシの使用が必須。 -
歯ぐきの下(歯肉縁下)
目に見えない歯周ポケットの中にも歯石は形成され、気付かないうちに歯周病を進行させるリスクがある。
歯石が引き起こす悪影響
「歯石くらい放っておいても大丈夫」そんなふうに考えていませんか?
実は、歯石を放置すると口の中だけでなく全身の健康にも悪影響を及ぼすリスクがあります。
ここでは、歯石が引き起こす代表的なトラブルについてわかりやすく解説します。
1. 歯周病の進行
歯石の表面はザラザラしていて細菌がつきやすいため、歯ぐきに慢性的な炎症を引き起こします。
これが「歯肉炎」から「歯周病」へと進行し、やがて歯を支える骨(歯槽骨)を溶かしていく原因になります。
悪化すると、歯ぐきが下がる・歯がぐらつく・最終的には歯を失うリスクも高まります。
2. 口臭トラブル
歯石に棲みついた細菌は、揮発性硫黄化合物(VSC)というガスを発生させます。これが、強い口臭の元になります。
特に、自分では気づきにくいため、知らないうちに周囲に悪印象を与えてしまうこともあります。
3. 審美性(見た目)の低下
黄ばんだ歯石が歯の表面に目立つと、清潔感が損なわれます。
笑ったときに歯石が見えることで、口元の印象が悪くなることも少なくありません。
4. 虫歯リスクの増加
歯石がある部分は歯垢もたまりやすくなり、歯の表面に細菌が増殖しやすい状態になります。
結果的に、虫歯菌による感染リスクも高まるため、虫歯予防の観点からも歯石除去は重要です。
5. 全身の健康への悪影響
歯周病と歯石が深く関係していることから、以下のような全身疾患との関連も指摘されています。
心血管疾患
歯石に潜む歯周病菌は、歯ぐきの毛細血管を通じて血流に乗り、全身を巡ることがあります。
この歯周病菌や、歯ぐきの炎症によって生じるサイトカイン(炎症性物質)は、血管の内壁にダメージを与え、動脈硬化を促進するリスクが指摘されています。
これにより、心筋梗塞や脳梗塞など重大な心血管疾患を引き起こす可能性が高まります。アメリカ心臓協会(AHA)も、歯周病と心疾患リスクの関連性に注目しています。
糖尿病
歯周病と糖尿病は、互いに悪影響を及ぼし合う関係にあります。
歯周病の炎症はインスリンの働きを妨げ、血糖コントロールを悪化させる一方、血糖値が高いと免疫力が低下し、歯周病が進行しやすくなる悪循環が生まれます。
日本糖尿病学会も、糖尿病患者に対して歯周病ケアの重要性を強く呼びかけています。
誤嚥性肺炎
高齢者に多いのが、「誤嚥性肺炎」です。
口の中で増えた細菌が、食べ物や唾液と一緒に気管へ入り、肺に感染を引き起こします。
歯石や歯周病で細菌数が増えると、誤嚥リスクが高まるため、口腔ケアが予防に直結します。
高齢者施設や病院でも、口腔管理の重要性が広く認識されています。
早産・低体重児出産
妊娠中に歯周病があると、早産や低体重児出産のリスクが高まると報告されています。
歯周病による炎症が体内の炎症物質を増加させ、子宮収縮や胎盤機能に影響を与えると考えられています。そのため、妊婦には歯科検診を推奨する医療機関が増えています。
認知症(アルツハイマー病)
歯周病と認知症との関連も近年注目されています。
歯周病菌「ポルフィロモナス・ジンジバリス(P.g.菌)」が脳に炎症を引き起こし、アルツハイマー型認知症に関与する可能性が示唆されています。
まだ研究途上ではあるものの、日頃の口腔ケアが認知症予防に役立つ可能性が期待されています。
歯石を自分で取る方法はある?
「できれば歯医者に行かずに、歯石を自分で取りたい」そんなふうに思ったことはありませんか?
結論から言うと、すでに固まった歯石を完全に自力で取るのは難しいです。
とはいえ、日常のセルフケアで「歯石になる前の歯垢をしっかり除去する」ことは十分可能です。
ここでは、セルフケアでできること・できないことを正しく理解し、効果的な対策を紹介します。
セルフケアでできること
歯石化を防ぐために、自宅でできる基本のケアは次のとおりです。
正しいブラッシング
歯と歯ぐきの境目に45度の角度でブラシを当てる「バス法」など、自分に合った磨き方を身につけましょう。
デンタルフロス・歯間ブラシの活用
歯ブラシだけでは落としきれない歯間部の汚れを、フロスや歯間ブラシでしっかり除去します。
歯垢染色液でチェック
磨き残しを可視化できる染色液を使えば、日々の磨き残しに気づきやすくなります。
デンタルミラーで奥歯を確認
手鏡やデンタルミラーで、普段見えない歯の裏側や奥歯の状態をこまめにチェックする習慣も効果的です。
このような習慣を続けることで、歯垢が石灰化する前に取り除くことができ、歯石予防につながります。
セルフケアでは歯石を完全に除去できない理由
毎日のブラッシングやフロスで歯垢を取り除くことは、歯石を防ぐためにとても効果的です。
しかし、一度歯垢が石灰化して「歯石」になってしまうと、自宅でのケアだけでは取り除くことができません。
ここでは、セルフケアにおける限界とリスクについて整理しておきましょう。
セルフケアの限界とは?
市販のスケーラーや超音波機器では限界がある
表面のザラつきが取れたように感じても、歯ぐきの中や歯の隙間にこびりついた歯石までは除去できません。
誤った自己処置は口腔内を傷つけるリスクがある
力任せに削ろうとすると、歯のエナメル質を傷つけたり、歯ぐきを傷めたりする可能性があります。
歯ぐきの中に隠れた歯石は発見が難しい
歯肉縁下(歯ぐきの下)に入り込んだ歯石は、素人目では確認できず、専用の器具と専門知識がなければ対処できません。
歯科医院での歯石取りの流れ
歯石は自宅でのケアでは除去できないため、歯科医院で専門的に取り除く必要があります。とはいえ、「どんな流れで進むのか不安」という方も多いかもしれません。
ここでは、歯科医院で行われる歯石除去の流れをわかりやすく解説します。
歯石除去(スケーリング)の手順
歯科医院での歯石取りは、次のようなステップで進みます。
① 口腔内の検査・カウンセリング
まず、歯科医師や歯科衛生士が口の中の状態を詳しくチェックします。
必要に応じて、以下のような検査が行われます。
- 歯周ポケットの深さの測定や出血の有無
- 歯石やプラークの付着状況の確認
- 必要に応じたレントゲン撮影
この段階で、現在の歯ぐきの健康状態や、どれくらい歯石が溜まっているかを正確に把握します。
② スケーリング(歯石除去)
続いて、専用の器具を使って歯石を取り除きます。使用する器具は主に以下の2種類です。
- 超音波スケーラー
高速振動と水流によって、歯の表面や歯ぐきの中にこびりついた歯石を浮かせて取り除きます。比較的スピーディーで、負担も少ない方法です。 - 手用スケーラー
超音波で取りきれない細かい歯石や、歯ぐきの中の繊細な部分は、手作業で丁寧に仕上げていきます。
この段階で、目に見える歯石だけでなく、歯ぐきの中に潜んだ歯石も徹底的に除去します。
③ PMTC(Professional Mechanical Tooth Cleaning)
歯石除去が終わったら、さらに専用の器械と研磨剤を使って歯の表面を磨き上げる作業が行われます。
これにより、歯の表面をツルツルにし、再び歯垢や歯石が付着しにくい状態を作ります。
PMTCは、歯の見た目の改善だけでなく、口腔内の健康維持にも非常に効果的です。
④ ブラッシング指導
最後に、自宅でのケアをさらに効果的にするため、正しい歯磨きの仕方や歯間ケアのコツを指導してもらえます。
- 自分では気づかない磨き癖の改善
- フロスや歯間ブラシの正しい使い方
- 歯並びに応じたケア方法の提案
これにより、歯石の再発を防ぐためのセルフケア力を高めることができます。
費用や頻度の目安
歯石取りは「高そう」「どれくらいの頻度で通うべき?」と不安に思う方も多いでしょう。
ここでは、一般的な費用感と通院頻度の目安についてわかりやすく解説します。
費用の目安
歯石除去(スケーリング)は、保険適用されることが多い治療です。
日本の健康保険制度では、3割負担の場合、費用の目安は以下のとおりです。
- 歯石取り(軽度)+クリーニングのみの場合
→ 約2,000円〜4,000円程度 - 歯周病治療が必要な場合(検査・レントゲン込み)
→ 約4,000円〜7,000円程度
※歯科医院や治療内容によって若干変動します。
歯石取りだけなら数千円台で済むことがほとんど。定期的なケアは、長期的に見れば「治療費の節約」にもつながります。
通院頻度の目安
歯石取りの頻度は、口腔内の状態によって異なりますが、一般的には次の通りです。
- 健康な人の場合
→ 3〜6カ月に一度の定期検診と歯石取りが理想 - 歯周病が進行している人の場合
→ 1〜3カ月ごとの短めの間隔でメンテナンス推奨

初回診断で相談し、自分に合った通院ペースを決めると安心です。
歯石がつかないようにするには
歯石を取ることも大切ですが、そもそも歯石を作らない口腔環境を目指すことが、もっとも効果的な対策です。
ここでは、毎日の生活で取り入れられる予防法を紹介します。
毎日のブラッシングと歯間ケア
歯石予防の基本は、やはり「毎日の正しい歯磨き」です。
ブラッシングのポイント
歯と歯ぐきの境目に45度の角度でブラシを当て、力を入れすぎず小刻みに動かしましょう。歯ぐきのマッサージ効果も期待できます。
歯間ケアも必須
デンタルフロスや歯間ブラシを使い、歯ブラシでは届かない歯と歯の間の汚れもしっかり除去します。
食生活と唾液の働きを意識する
食生活も、歯石予防には大きく関係しています。
- よく噛む習慣:
唾液量が増え、歯の再石灰化を助ける作用があります。 - 糖分の摂りすぎを控える:
糖は細菌の増殖を助長し、歯石の原因となる歯垢を増やすリスクが高まります。
唾液の力をうまく活かしながら、歯垢がたまりにくい口内環境を作りましょう。
定期検診を受ける
どれだけ丁寧にセルフケアをしていても、完璧に歯垢を取りきることは難しいものです。
だからこそ、定期的なプロフェッショナルケアが重要になります。
- 3〜6カ月ごとの定期検診
歯石の付き具合や歯周病の兆候を早期にチェックできます。 - ブラッシング指導でセルフケアもレベルアップ
自分に合った磨き方を教わることで、磨き残しを減らし、歯石の再付着を防げます
定期検診を受けることで、トラブルを未然に防ぎ、健康な口腔環境を長く保つことができます。
歯石除去に関するQ&A
Q1. 歯石取りは痛いですか?
A. 軽度の歯石であれば、痛みを感じることはほとんどありません。
ただし、歯ぐきに炎症がある場合や歯石が深く付着している場合は、チクチクとした刺激を感じることもあります。
痛みが心配な場合は、施術前に歯科医師や歯科衛生士に伝えておきましょう。状態に応じて、麻酔などで対応してくれることもあります。
Q2.市販のスケーラーや超音波機器を使っても大丈夫?
A. 自己流での歯石除去はおすすめできません。
市販の器具では、表面の歯石が少し取れたように見えても、歯や歯ぐきを傷つけるリスクがあります。
安全かつ確実に取り除くには、歯科医院で専門的な施術を受けるのが最善です。
Q3.歯石取り後に歯がしみることはありますか?
A. 一時的に知覚過敏が起こることがあります。
歯石除去によって歯ぐきが引き締まったり、歯の根元が露出したりすると、冷たいものや甘いものにしみることがあります。
知覚過敏用の歯磨き粉を使う
必要に応じて歯科医院でのケアを受ける
しみる症状が続く場合は、早めに相談しましょう。
Q4. 歯石はどれくらいでまた付着しますか?
A. 個人差はありますが、ケアを怠ると数週間〜数カ月で歯石が再形成されます。とくに、ブラッシング不足や唾液量の少ない人は歯石が付きやすい傾向があります。
毎日のセルフケアを丁寧に続ける
定期的な検診で早期に対応する
歯石除去で健康的な口腔環境を維持しよう
歯石は、放置すれば歯周病や全身の病気を招くリスクがあります。
しかし、正しいセルフケアと定期的な歯科医院でのケアを組み合わせれば、健康な口腔環境を長く維持することが可能です。
- 毎日のブラッシングと歯間ケアで歯垢をためない
- 歯石の除去はプロに任せる
- 3〜6カ月ごとの定期検診でトラブルを防ぐ
- 食生活を整え、歯石が付着しづらい口腔環境をつくる
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